悲しい、悲しい話をしよう

悲しい、悲しい話をしよう。これは己の誕生を心の底から呪った男の話だ
男はこの世に生を受けた事を決して呪ってはいなかった
むしろ、諸手を挙げて両親に感謝していた程だ
しかし男は、思春期を境に年をとることをひどく恐れるようになった
旧友達との昔話に華を咲かせる時、友人知人の誕生を祝う時
そして、己の誕生日が近付く度に口にした「あぁ、年はとりたくねぇなぁ」
精神的な成長が完全に止まった思春期以降、体だけが大きくなり
遂には社会的な責任を負うような年になり、男はさらに己の誕生日を恐れるようになった
まだ寒かった3月、男は22歳の知人を指差しこのような事を言った
「ちょ、22歳ですか!ヤバい!ヤバいよ22歳!もうアレだね!22歳て!」
心の底から22歳をからかい、小馬鹿にしていた男も年度が変わり
自らが22歳になる日を目前とした日の事である・・・・・・・・・


翌日、男は遂に22歳という恐怖の年齢を迎える事になる
たとえそんな日であろうと、いや、そんな時だからこそ
男は常日頃の日課としているゲームセンターへと足を運んでいた
筑波往路で拓海にどうしても勝てない。100円玉は次から次へと筐体に吸い込まれるばかり
ここ1ヶ月程男の心を掴んで離さなかったレースゲームは遂に男を突き放した
決して止めるわけではない、息抜きだ、息抜き
己にそう言い聞かせて男が向かったのは高校時代から延々100円玉を注いでいる
9つのボタンを叩くゲームだ。しかしその手にしっくりと馴染んでいた9つのボタンでさえも男を突き放した
健やかなる時も、病める時も、空腹の時ですら鼻唄まじりにクリアできていた
メロパンクがクリアできなくなっていた。ステアとシフトの握り過ぎが
原因なのか?忍び寄る22歳の影がクリアを拒んだのか?
男は絶望した、ポプンが出来ない自分に果たして何の存在価値があるというのか?
ゲームセンターというこの空間は22歳になろうとしている自分を見放したのか?
否、これは加齢に伴い新たな一歩を踏み出せという啓示なのだ
未知の世界への一歩を踏み出す事により、精神的な面での成長をするべきだ、という啓示なのだ!


その夜男は悩んだ、悩みながら新たな一歩を踏み出す算段を
延々とお布団様の中で悩んだ挙句、日付が変わった


男は、新たな何かを見出せないまま22歳を迎える事となった。


22歳を迎えた朝、当然の事の様に天気は男を歓び讃える事はなかった
鈍い色の空を眺めながらも朝食を摂った男は
昨晩の続きとばかりに悩みはじめた。22歳の俺に一体何が出来るというのか?



疲れた目 こすった先に


探し求めていた 灯りを見た



        そうだ、ドラムでもはじめてみようか?






ここ数年来の愛車である「巫女子号」に飛び乗った男は走り出した
出来なくて当然、ゼロからのスタートだから拒まれて当然
しかし、ゼロからだからこそ、得られる 何か がドラムにはあるはずだ
ドラムをやろう!ドラムを叩こう!この手でドラムを奏でよう!



こ の 手 で ド ラ ム マ ニ ア を 始 め て み よ う !



男は一心不乱にスネアを、ハイハットを、バスドラムを叩いた
当然の事のように選曲は「哀愁のコリゴリラ」と「わすれもの」だ
眠そうな目でみずしな先生が、あの大きな瞳でゴチさんが男の訪れを歓迎してくれた
22歳の心で、体で、感じる世界も、なかなか悪くない・・・・・・・・・・・・・




要約


仁Dとポプンにいい加減飽きてきたんで、誕生日という今日を契機にドラムマニアに手を出してみた
ちょっと前にいい電子をまとめ買いしたんでみずしな先生が絵描いている曲ばかりプレイしてみた
バス付きでやると難しいけど楽しい。散財の予感